エジプト
ファラオの秘薬
古代エジプトとはB.C.3100頃~B.C.30の古代のエジプトのこと。亜麻はこの頃メヒー(mHy)と呼ばれていました。
ミイラを包む布として使われていたり、エジプト第19王朝(B.C.1293~ B.C.1185)のテーベ第1号墓の死後の理想郷を描いた壁画に、
この墓に眠るセントジェイム夫妻が亜麻を育てる姿が描かれていたりと、
現存する資料からもエジプトでは古代から亜麻が利用されていたことが解ります。
古代エジプトの植物利用を紹介した「ファラオの秘薬ー古代エジプト植物誌」や、
同時代の薬学を紹介した「古代エジプトの秘薬」には、最古の医学文献と言われるエーベルス古文書をはじめ、
古代からの処方が載っており、その中にアマニの記述もあります。
「ファラオの秘薬ー古代エジプト植物誌」より「アマ」の解説の一部をご紹介します。
旧約聖書
アマはエジプトではずいぶん早くから栽培されている。出土する繊維がそのことを物語っている。亜麻仁油が登場する最も古い記録は、プトレマイオス王朝時代からのものである。だが、実際には食用油や灯油としてもっと古くから使用されていたことは間違いない。医薬としては、外用にされていただけのようである。アマの葉、タイガーナッツ、ある液体、それに未同定の材料から座薬を作り、肛門の腫れ(痔病か?)に用いていた。そして、お腹の熱は次のような薬で和らげていた。
アマの先端につく果実(1)、発酵した植物汁液を患者のお腹の上に置く。(E 179)(※1)
手足の爪先に施す包帯薬は、黄土、亜麻仁、エジプトイチジクの不明の一部分、蜂蜜、油か脂肪を材料として作られた(H 187)(※2)。亜麻仁油で作る湿布薬は、実際に痛みを緩和し、傷や化膿を治すのである。プロスペロ・アルピーニは、亜麻仁を鎮痛剤として服用する基本薬の成分の一つに挙げている(Medicine,266)(※3)。亜麻仁は、コプト人の処方に一か所だけ出ており、それはsirと呼ぶ病気を治療するためのものだった。すなわち、亜麻仁、イチジク、ゴム、蜂蜜で作るもので、患者に服用させたのである「が、患者はその後でイチジクの汁液を飲まなければならない」ということだった(Ch 22)(※4)。
- (「ファラオの秘薬ー古代エジプト植物誌」より)
- ※1:P.Ebers エーベルス古文書(B.C.1550頃)
- ※2:P.Hearst ハースト医学古文書(B.C.1550頃)
- ※3:1561-4年にエジプトに住んでいたベネチアの医師プロスペロ・アルピーニによる著作
- ※4:P.Chassinat 9世紀には成立していたコプト語の資料
- 出典
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「ファラオの秘薬ー古代エジプト植物誌」
リズ・マニカ著 八坂書房編集部訳
八坂書房 1994年「古代エジプトの秘薬」
大澤弥生著 エンタプライズ 2002年「ファラオのレシピ」
ミシェル・ベリデイル-ジョンソン著 吉村作治監修 遠藤公美恵訳
大英博物館ミュージアム図書 2000年「ビーノ・ブックー世界の豆料理 オードブルからデザートまで」
パトリシア・グレゴリー著 新井雅代訳
朝日新聞社 1996年
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コーナーの第1話の「レシピ」でアマニを使った湿布をご紹介しましたが、アマニ油も湿布に使われていたんですね。 アマニ油はまた、薬用だけでなく、灯りや食用など幅広く利用されていたとのことですが、エジプトの国民的料理フール・ミダンミスというそら豆の煮込み料理には、オリーブオイルの代わりにアマニ油が使われることもあるのだとか。この料理は古代エジプトの時代にまで遡るとも言われていますので、ファラオもアマニ油を食べていたのかもしれません。


関連レシピ
フール・ミダンミス
エジプトの人々にとって欠かせない国民的料理といわれるそら豆の煮込み料理、フール・ミダンミス。
エジプトでは、これにタマネギの皮と一緒にゆっくり煮込んだエジプト風ゆで卵を添えたり、パンやサラダを添えて食べられています。
私たち日本人にとって家庭の数だけお味噌汁のバリエーションがあるのと同じように、
このフール・ミダンミスも家庭それぞれの味があることは容易に想像できます。
そのような意図から、各自のお好みの味に仕上げられるように、
このレシピのスパイスや調味料の分量はあえてざっくりと記載しています。
お時間のある方は、じっくり極弱火で時間をかけて煮込んでみてください。
皮付きのそら豆でも柔らかく煮上がります。
- 材料(約4人分)
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・乾燥そら豆:300g
・にんにく:1片
・アマニ油:1/4カップ
・クミン:小さじ1~2
・レモン:4片
・カイエンヌペッパー:少々
・塩:適宜
・パセリ:適宜
・きゅうり・トマト・にんじんなど、野菜のスライス
- 作り方
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1. たっぷりの水に乾燥そら豆を一晩浸します。
2. 皮をむきます(※1)。
3. 厚手の鍋に豆と豆がかぶる程度の水を入れ、弱火でじっくり柔らかくなるまで煮込みます。
4. 煮あがったら水を切り(ゆで汁もとっておきます)、豆をつぶします(※2)。つぶしたにんにく、アマニ油の分量の1/2を加えて、ゆで汁で固さを調節しながら混ぜます。
5. 器に盛り、みじん切りのパセリを散らし、野菜のスライスを飾ります。いただく直前に残りのアマニ油をかけます。
6. 各自の好みで味付けできるように、クミン、レモン、カイエンヌペッパー、塩はテーブルに置き、各自とりわけながら加えます。- ※1 皮を剥いた状態のそら豆の場合この行程は省きます。また、じっくり極弱火で煮る際は、皮は剥かずに使えます。
- ※2 ゆでたまま、全部または一部をつぶして、など各自の好みに仕上げます。
- ※ 熱い湯を使用するため、取扱いには充分注意してください。

