デンマーク
古代人のアマ
古代において、アマは食用作物として栽培され繊維も利用されていたのか、それとも逆だったのか。 食料としてアマがほとんど出土しないことから疑問がつきまとっていた中、ひとつの答えをくれたのが、 前号触れたデンマークで発見された古代人、トーロンという場所にある湿地から出土したトーロン人でした。 湿地による空気の遮断と泥炭のタンニン酸のため、 奇跡的に、亡くなる前に食べていたものがはっきり確認できる状態で保存されていたのです。 デンマークを代表する考古学者であったペータ・ヴィルヘルム・グロブ氏の著作の和訳書、「甦る古代人」には このトーロン人の暮らしていた時代の衣類、食事、習慣、信仰など、日常生活が可能な限り描き出されています。 この著書がイギリスの少女たちからの「トーロン人について知りたい」という手紙から始まり、 その疑問に答えるためにグロブ氏が著したものだと知ると、訳者もあとがきで伝えている通り、 共通の先祖に対する敬慕の念が伝わってきます。 この「甦る古代人」に描かれているトーロン人の食事についてご紹介します。
古代人の食事
・・・胃腸内の残留物は大麦、アマ、アマナズナそしてヤナギタデなどの植物に、耕作地に生える多種の雑草を混ぜて作った粥の未消化のものであり、また肉類を食べていたら多量に残っているはずの骨や腱や筋肉組織が皆無であった・・・
・・・この食事の特徴は、栽培穀物のほかに淡色のヤナギタデが驚くほど多量に使われていた点である。なぜなら、ヤナギタデはむやみに収穫されるものではなく、これを収穫すれば、たとえば青緑色をしたエノコログサ、ギシギシ、ソバカズラ、白い花粉のカミツルやアマナズナなども混ざりかねないからである。鉄器時代前期の人々も肉や魚は食べていたが、やはり紀元前後の時代に生きたトーロン人らの主食となると、栽培か自生かなどには頓着せず、雑多な種子を混ぜて作った粥ということになろう。
もっとも皿や容器が多数、牛や羊の枝肉や肉切り包丁といっしょに並んで墓から出土した例もある。しかし、石器時代の狩猟民とはちがって肉が主食でなかったのは確かで、多様な土器の形状から示唆されるように、おそらくそれはミルクとチーズであった。